20171128

誤情報がツイッターでどのように広まるか

誤った情報があっという間に広がって収集がつかない、という話をよく聞く。先日、ツイッターで初めてその現象を目の当たりにした。

流れをまとめるとこんな感じだろうか。

1. 誤った情報(紛らわしい情報)が発信される
2. 事実確認をせずに発言力の大きい人(大手メディア、フォロワー数の多いオピニオンリーダーなど)が発信する
3. フォロワーが拡散する
4. フォロワーのフォロワーがまた拡散する(の繰り返し)
5. 誤りに気づいた人が2.の発信者に訂正を知らせる
6. 5.の訂正の返信を見ずにフォロワーが拡散しつづける
7. 発信者自ら訂正をしても拡散された情報が肥大しつづける

1の段階で目を引く見出しや画像であればあるほど広がりやすく、発信元にある程度権威がある場合(今回のように大手メディアのほとんどが同様に報じているとか)はほぼ事実だろうと思われて、2の段階で事実確認は行われないことが多いだろう。

ツイッターで誤った情報が広まりやすくなったのはなぜなのかについては、以下の本がわかりやすかった。

「ポスト真実」の時代 「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか

今回私が目にした誤情報の拡散は、主要な新聞、通信社がミスリーディングな見出しと内容で報じたことが要因の大部分を占めると思う。

さまざまな活動家やジャーナリスト、政治家の方々がこのニュースをツイッターで取り上げていた。
首相、57億円拠出を表明 女性起業家支援のイバンカ氏基金(共同通信)
この見出しと内容では、アメリカのトランプ大統領の娘のイバンカ・トランプ氏の個人的な基金もしくは同氏が中心的に関わっている基金に、安倍首相が税金から57億円をぽんと出しますよ、とその場で約束したかのように勘違いしても仕方がないと思う。

東京新聞、毎日新聞、朝日新聞、産経新聞も以下のように報じていた。
主要各紙がこんなふうにほぼ同様の見出しだと、やっぱり勘違いしても仕方がないと思う。

ツイッター上では、保育園が足りていない問題の対処に使ってほしい、社会福祉には財源はないというくせにトランプの娘にはほいほい出すのか、対米従属はやめろ、子どもの貧困の問題に使ってほしい、大学の授業料無償化に使うべき、性暴力被害者のシェルターを作って欲しいなど、さまざまな意見とともにこのニュースがどんどん拡散され、リツイートも多く、しばらくタイムラインがイバンカ基金で覆われるほど流れていた。

「イバンカ基金って何?」「ほんとにちゃんと女性起業家の支援に使われるの?」と疑問に思い、「イバンカ基金」で検索してみると、以下のBuzzfeed Newsの記事が出てきて、主要各紙の報道が変だということがわかった。Buzzfeed Newsの記事は報道から数時間後に発信されたもの。
安倍首相が「イバンカ氏基金」に57億円を拠出? でも実際は…「イバンカ・トランプ米国大統領補佐官は、運営管理または資金調達には関与しない」(Buzzfeed News)
この記事によれば、イバンカさんの個人的な基金ではなく、イバンカさんも設立に関わった世界銀行内の基金「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)」への拠出で、57億円拠出することは、安倍首相がこの会議で勝手に決めたのではなく、7月にすでに外務省が発表していたという。

「イバンカ基金」という言葉で報じているのがそもそもおかしくないだろうか。この記事では世界銀行のプレスリリース(=一次情報)、日本外務省の声明で裏を取り、事実を伝えている。主要メディアはこのくらいの裏とりはしているものだと思っていたので、ただそのまま横流しにしているということなのかと残念に思った。産経新聞にある「基金は、イバンカ氏の提案を受け」たという事実があるのか、朝日新聞にある「イバンカ氏が主導して立ち上げた」という事実があるのかどうかは、世界銀行のプレスリリースを読む限りはそうした情報は確認できない。どこから出た情報なのだろう?

このことに気がついて、自分も勘違いしたけど、実際はこうみたいですよ、と丁寧に参照元のURL(外務省や世界銀行のプレスリリース、前述のBuzzfeed Newsの記事など)をつけて返信している人も結構見られたが、その返信を見てからリツイートやリプライをする人は少数で、誤った報道記事がどんどんリツイートされ、なかなか止まらなかった。

安倍首相を狂信する人たちや、プライドの高い人たちは、対米従属を批判する活動家やジャーナリスト、政治家がこの記事についてツイートしているのを見て、鬼の首でも取ったような態度で、事実を確認してからツイートしろだとか、「また釣れた」とか、政治家のくせにこんなこともわからないなんてだとか、もっと汚い言葉や誹謗中傷を浴びせていたり、嫌なことを書きまくっていて「人間ってこんな汚いのか」と気持ちがわるくなった。

こんなこともわからないだなんてとか、共同通信の記事にはこの基金の正式名称「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)」すら載っていなかったし、「イバンカ基金」から世界銀行内の基金ってわかるって「どんなクイズだよっ」という感じだ。常にパソコンにつきっきりでよっぽど情報を追い続けている人ならわかるだろうけど。ツイッターで流れてきた情報だと、ソースが載っていない言説や、ブログからの引用などであれば、裏をとってから反応しようって気をつけるけど、大手メディアが報じていたら、たぶん正しいだろうと思ってリツイートしても仕方ないと思う。

そういう攻撃的な返信を受けているオピニオンリーダーたちに正確な情報を伝えたいと思うものの、自分も攻撃を受けそうで怖くてあんまりできなかった。あまりフォロワーの多くない人にはそっと教えたけど、フォロワーがいっぱいついていて、ぶわーっと攻撃が集まっている人にはムリだった。

こういうとき、誤りが訂正されていくよりも拡散する速度のほうが速いということがよくわかった。よく言われるので、そういうもんなんか、と思っていたけど、そういう現象をリアルタイムで初めて見て、腹でわかった感じがした。

それにしても、7月にすでに外務省が発表していた世界銀行内の基金への資金拠出が、今になってどうしてこういう報道(「安倍首相がイバンカ氏の女性支援のための基金に57億円を拠出」と勘違いしてしまうような)になったのかも疑問に思った。イバンカさんやトランプ大統領のイメージアップが狙いか?、安倍首相が女性支援に力を入れていると見せかけたいのか?と、いろいろ勘ぐってしまう。

今回よくわかったことは、(1) いくら大手の新聞でも通信社でも間違うことがあるから、検索してみることが大事、ということ。今回は日経新聞はミスリーディングな情報を出していなかったので、ニュース検索をして関連記事を見比べてみるだけでも誤情報を発信してしまうリスクは減らせるだろう。それから、(2) もし間違った情報を発信してしまったら、投稿そのものを削除しないとどんどん広まっていってしまうので、すぐ削除して、誤りだったということを訂正した投稿を書くべきだということ。

攻撃的な返信やRTもたくさんあったけど、敬意をもって誤りを指摘する品位のある人たちも結構いて、日本の社会はまだまだ捨てたもんじゃないと思った。