20160211

人間はモノじゃない

【旧暦睦月四日 立春 次候 黄鶯睍睆(うぐいすがなく)】

「フリーランスの仕事探しに良いよ!」と噂のLancers(ランサーズ)
を覗いてみて、びっくりしました。
価格コムで電化製品が並んでいるみたいに、
横に☆マークで評価がついた人間が並んでいる・・・

人間がモノみたいに扱われていてすごく悲しくなりました。
男性の写真の上に「俺のスペック需要ある?」というコピーが載った
結婚相談所のバナー広告にも辟易とします。

人間はモノじゃない。

翻訳の仕事をしていると、機械のように扱われることもあります。
英語ができれば、読んだだけで自動的に日本語に変換されて
スラスラと訳文が出てくると思われている人もいるようですが、
これはよくある誤解です。

文脈によっても意味が変わってくるし、
読んだだけでは文意がはっきりしない場合など、
事実関係を調べる必要もあります。

簡単な例を上げれば、sisterやbrotherが出てきたとき、
中学校や高校のテストには「姉(または妹)」「兄(または弟)」と書けるけど、
訳文ではそういうわけにはいかないのです。

専門用語や固有名詞も、自分で読む分には、
「なんかそういう系の団体が、あっち系の報告書出したのね」という感じの理解で十分ですが、
自分の名前の漢字が間違われたらダメなのと同じで、
団体名や用語も間違っていたらいけないので、
定訳がないかどうか、ひたすら検索サイトと格闘して、調べまくります。

そんな作業もありつつなので、
1文訳すのに15分や20分もウンウンうなり続けることも。

英語は使う人が多いだけに、どんどん新しい使われ方も出てきていて、
辞書に載っていないような使われ方に遭遇することもあります。
そういうときは、英英辞典をひきまくったり、
他の例文を検索して読みまくったりして、
意味を推測するという作業も発生します。

そんな機械みたいにスラスラはいかないから、
人によっても全然違う訳になったり、
助動詞や時制、単語の解釈で、あーだこーだと議論になるところもあります。
チェッカーさんと自分とで全然違う訳になったりもするわけです。

チェッカーさんがテキトーに直しまくって
「ミスが多いから値下げしろ」と言われた例も読んだことが。
私は値下げしろは言われたことはないですが、テキトーに直されまくっていて、
世に出るにはあまりにもひどい訳文になったので、
一つ一つ、根拠を提示しながら、自分の訳に戻すor第3案を提示するという
めんっどくさい作業をしないといけなくなったこともありました。
あれは時給にしたらいくらだったのでしょう・・。
もうあんなチェッカーさんには当たりたくないです。

そもそも、翻訳ができるようになるまでは、
結構な修行を積んでいるわけです。
翻訳学校に何十万も投資している人もいます。
それを一語8円とか10円とかって、悲しすぎる現実です。

レイキの学校では、師範になるまでに10年から15年かかるから、
アチューンメントの受講料が1人約3-5万円(級によって異なる)と聞きました。
一回あたり、最大で8人くらいが参加できるので、
一回開講したら最大24-40万円。
レイキの施術は1時間で6000~8000円くらい。
翻訳の修行も同じくらいだけど、
そんなにもらえている人いないよなーと思いました。

自分でも英語を苦労して習得されて、
ご自身でも翻訳などの仕事を実際になさっている方は、
こういう背景をよくご存知なので、作業の高度さと能力を考慮して、
なるべく高い費用を払おうとしてくれます。
先日も、予算が限られている中で、最大限の値上げを提案してくださって、
そんな人はなかなかいないので、ものすごく感動して、お礼を言ったら、
こんなことは褒められるようなことではなく当たり前のことで、
なるべく還元したいし、そうしないと広がっていかない、とのこと。
こんな立派な心がけの経営者が増えてくれると
世の中はもっとハッピーになるだろうなぁと思いました。

広がっていかない、たしかにそうなんです。
難しい調べ物も、読みやすい訳文も、できて当たり前で、
少しでもミスがあったら鬼の首でも取ったような態度の人もいます。
金を払うほうがエライみたいな態度ですね。

移住したとき、「生活費がかからなくなる分、安くしていいよね~」
的なことをされたことがありました。
作業内容も、私の仕事の能力も全く変わっていないし、
変わったのは居住地だけなのに、なんじゃそりゃ?って感じでした。
あと、「定期的な案件だから少し安くてもいいでしょ?」とかもあったなぁ。
単発じゃない分、生活は安定するんだから、まっ安くやれよ、という話です。

こういう方とのお仕事は、残念ながら優先順位が下がります。
「あんたの替えなんか、いくらでもいるんだぜっ。フンっ」みたいな方とは、
「あーそうなんですかー。じゃあ、その人にお願いしたらー?」と思うので、
よほど生活がピンチでないと受けないと思います。

そうなると、優秀な人はいずれいなくなるわけです。
賢い人は移住したりオフグリッド化したり、衣食住の自給割合が増えていたりして、
生活費が少なくなってきているうえに、
ナリワイを自ら作って収入の道を自ら開拓したりしているので、
これからはますますそうなるでしょう。

前述の粋な経営者さんみたいに、大事にしてくれている方だったら、
「いや~○○さんのお願いだったら、喜んで!」と
どんなに忙しくても、なるべくお手伝いしたいなーと思うものです。
長くお仕事をしていくと、流れや細かいこともツーカーになってくるので、
細かい説明も省けて、仕事もしやすくなり、
ほかのもっとクリエイティブなところに時間が使えるようになります。

人間を人間らしく扱わないビジネスは、終わりが早いでしょう。
相手に愛と敬意を持って接することのできる関係は、
どんどんおもしろく発展して長く続いていく。
自分をモノみたいに安売りしていると、
終わりの早い相手と短期的な関係しか結ぶことができません。
時間はかかっても、大事にしてくれる人たちと、
ゆっくり大きく楽しい仕事を作っていくほうが、
長い目で見れば、大きな安定と幸せにつながると思います。

それに、もっと広く長期的な視点で考えたら、
能力の高い人ほど、自分をモノみたいに安売りしたらあかんと思う。
デキる人が不当に安い値段で受けていたら、
能力のまだ未熟な人はさらに安い値段で疲弊しなきゃなんないし、
能力の高い人が、ほかの仕事をしないといけなくなって、業界全体の品質水準が下がる。
翻訳で言えば、品位に欠ける訳、誤訳だらけの訳文、
日本語として読みにくい訳文だらけになって、
最終的には、日本の活字文化の衰退につながります。
海外の文化との交流によって生まれる文化の発展にも悪影響が出かねません。

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